「十角館の殺人」感想|伏線回収と心理描写が秀逸な新本格ミステリー

本の紹介

タイトル:十角館の殺人

著者:綾辻行人

ジャンル:ミステリー

綾辻行人の『十角館の殺人』は、1987年に発表された新本格ミステリーの代表作であり、日本の推理小説界に大きな影響を与えた作品です。本作は、孤島に建つ不気味な「十角館」を舞台に、大学のミステリー研究会に所属する7人の学生たちが次々と殺されていくという展開で進みます。外部と完全に隔絶された環境の中、疑心暗鬼に陥る登場人物たち。そして、島の外では、過去にこの館で起きた事件と現在の連続殺人との関連が明らかになっていきます。巧妙に張り巡らされた伏線と、読者の予想を覆す衝撃的な真相が話題を呼び、本格ミステリーの醍醐味を存分に味わえる作品です。特に、叙述トリックの鮮やかさは高く評価されており、ミステリー好きなら一度は読んでおきたい一冊です。

印象に残ったポイント3つ

「重要なのは筋書きではなく、枠組みなのだ。」という言葉

物語の冒頭で、犯人が心中で語るこの言葉が非常に印象的でした。

詳細まで完璧な計画(筋書き)を考えるよりも、不測の事態は絶対に起こるものとして、それに対応できるような柔軟な枠組みを作ることの方が重要であるという考え方は、ミステリーの枠を超えて、人生全般にも通じる深い教訓だと感じました。

登場人物たちが追い詰められていく描写

物語が進むにつれて、登場人物たちが徐々に精神的に追い詰められていく様子が巧みに描かれています。

アガサがやつれてヒステリーを起こす場面、ヴァンが限界に達して嘔吐する様子、ルルゥがひどい頭痛に悩まされ一晩中悪夢を見る描写など、彼らの心の荒れ具合がリアルに伝わってきます。

これらの描写によって、読者は緊張感を共有し、物語に深く引き込まれます。

衝撃的な名前

物語の終盤で明かされる、あだ名の持ち主の正体が衝撃でした。

以下、ネタバレ注意

島にいるはずの「ヴァン」がなぜここにいるのか、もしかして本土にいるのはサークルの先代のヴァンで、島のヴァンとは別人なんじゃないか、などと考えたくらい、完全に騙されました。

島の外は波が高くて地元の人でも寄りつかないことや、「そして誰もいなくなった」を引き合いに出していたことで、この島はクローズドサークルであると先入観を持たされていましたが、エンジン付きボートを使えば島外との行き来は可能であり、厳密にはクローズドサークルではなかったのです。

確かにエラリィはそう言っていましたが、全体的に的外れな推理を展開していたため、それも一緒に的外れだと流してしまっていました。

それすらも見越した叙述トリックだと思うと、著者の綾辻行人さんを讃えるしかありません。

学び、考えたこと

重要なのは筋書きではない、枠組みなのだ。その中で時々の状況に応じて常に最適の対処が可能であるような柔軟な枠組み。事の成否は、あとは己の知力と機転、そしてなによりも運にかかっている。

この格言が非常に学びになりました。

「8日目」の章では犯人目線で答え合わせが展開されます。

以下、ネタバレ注意

その中で5日目のルルゥを殺害した時には、ヴァン目線では致命的なミスを犯していましたが、エラリィは「中村青司犯人説」を信じて疑わなかったため、難を逃れたシーンがありました。

それまで完璧と言える立ち回りをしていたヴァンでしたが、たまたま前日にエラリィが青屋敷の地下室を見つけるなどして「中村青司犯人説」に執心していたことが奏功し、最終的には運でピンチを切り抜けたことを示しているシーンだと言えます。

この場面では、大事を成すには、柔軟な枠組みを事前に周到に用意するだけでなく、最後は運も必要ということが読み取れました。

この格言はただのミステリー小説の一文に留まらず、現実の人生においても通じる教訓であると感じました。

こんな人におすすめ

• ミステリー好きな人:緻密なプロットと意外な展開が好きな方に。

• 心理描写を重視する人:登場人物の心の動きや葛藤を深く描いている作品を求める方に。

• 予想外の展開を楽しみたい人:物語の中で何度も驚かされる展開が待っています。

まとめ

『十角館の殺人』は、読者を最後まで引き込む力を持った作品です。

ミステリーの醍醐味を存分に味わいたい方には、ぜひ手に取って読んでみてください。

それでは。